おこぼれ.

安川サイコ《私言》のウェブ版。
by yskw315
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31
カテゴリ
以前の記事
お気に入りブログ

36回目の朝

小鳥のように甲高い声で朝を告げ、栗鼠のように軽々と飛び回って私を起こそうとする夏未に「あと30分」と粘って布団を被る。
今朝は大人しく諦めてくれるだろうか。
うつらうつらと目を開けずに気配を伺いつつ、しばらくしたいようにさせていると、彼女は諦めて階段をかけ降りていった。

二度目に覚醒したのはそれから1時間半後だった。
まどろみの沼に半身を浸したような状態で彼女の声を聞く。
そろそろ起きてやるか。

簡単に朝食を済ませ、シャワーを浴びる。
曇りガラスの向こうで小さい人影がいったり来たりしている。
たまに浴室のドアを開けては、私にシャンプーや石鹸の場所を指示する。
彼女がドアを開けるたびに湯気が揺れる。
石鹸を流して脱衣所に出ると、待ちわびていたようにバスタオルを手渡して居間に駆け出す。

タオルドライした髪のままで着替えて居間に戻る。
彼女はいつもよりもおめかしして、へんな体勢でテレビにかじりついている。
今のうちにと母も私も急いで身支度をする。
義理の兄は仏壇のある和室で数種の書類を手にして、父と打ち合わせをしている。

10時半には兄が迎えに来てしまう。
せっかちな兄に合わせて、少し前に靴を履いて庭で待つ。
リコリスが寂しげに最後の一輪を咲かせている。

白い車が門の前に止まった。
夏未の手を引いて車に乗り込む。
記憶よりもずっとくすんだ懐かしい街並みが通りすぎる。
先日このあたりを襲った猛烈な台風は、さまざまな残骸をこの下流の街に押し付けていった。
時折、土砂を飛ばしながら、郊外へと車を走らせる。
夏未は後部座席のまん中で、うとうとしかけている私にちょっかいをだす。

道はどんどん細くなっていき、いよいよすれ違えないほどの狭さになっている。
さびれて頼りないバス停のすぐ先で車が止まる。

我々が車を降りると、真新しい墓石のまわりにはすでに祖父母たちが集まっている。
うっすら赤みがかった花崗岩に、一字だけ「道」と彫られている。
とても見覚えのある字だった。

ユリの花の描かれた陶器の蓋が一度だけ開かれる。
病巣の分だけ左側にぽっかりと穴の空いた白い球体の上部が覗く。
紛れもなく姉のものだ。
義兄の手によって、コンクリートに囲まれたシェルターのような空間に納められ、平たい石で塞がれる。
夏未は今日おろしたての新しい髪留めをしきりに気にしている。

私は3番目に前に出る。
中学生の姉の書いた文字と対峙する。

『たどるべき「道」は、ここに続いていたの?』

心のなかで問いかけながら手を合わせる。
[PR]
by yskw315 | 2013-10-21 23:37
<< 無題 grue >>


その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧